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はじめに

2025年4月27日、東京都立の日比谷公園で開催中のアートイベント「Hibiya Art Park 2025」に足を運びました。本イベントは、東京都が推進する「花と光のムーブメント」の一環として行われており、2024年に初開催されて大きな反響を呼んだ屋外アート企画の第2弾となります。

昨年は「Playground Becomes Dark Slowly」というテーマのもと、巨大な花瓶型オブジェ《Gravity and Grace》や、花壇上に吊るされた「Flower Hammock」など、参加型の作品が公園を彩り、来園者に新しい体験をもたらしました。日比谷公園が持つ「子どもの遊び場」と「日本初の近代的洋風庭園」という二面性を活かし、アートと自然が見事に融合した空間が話題を呼びました。

今年の「Hibiya Art Park 2025」では、展示期間を4月25日から5月25日へと延長し、約1か月にわたる2部構成でさらに充実した内容となっています。入場は無料・予約不要で、朝9時から夜10時まで誰でも自由に楽しめる点も魅力です。私が訪れたこの日も、ゴールデンウィークのにぎわいもあって家族連れや観光客が絶えず、公園は明るく華やかな雰囲気に包まれていました。

第1期のテーマは「Transformed Composition – 組み合わせと見立てで遊ぶ」。日本文化に根づく「見立て」の発想を軸に、異なる要素を組み合わせて新しい意味を創出するアプローチが各作品に込められています。

見どころ紹介:園内の主な展示作品

  • 「流れを生む森」(Forest for Momentum) – 小金沢健人+西畠清順 (第一花壇) 世界各地から集めた多様な植物を用いて、第一花壇に直径約28メートルの“森”を創出。ヤシの木が立ち並び、霧が漂い、光が差し込む空間は、まるで異世界のような没入感をもたらします。足を踏み入れた瞬間に都会の喧騒が遠のき、緑と水音に五感が包まれました。

  • 「ハイヌウェレの彫像」(Statue of Hainuwele) – 久保寛子(草地広場) 長さ20メートルにも及ぶ巨大な女性像が芝生に横たわります。マルク諸島の神話「ハイヌウェレ」に着想を得て、鉄骨に土を塗り込めて制作され、草花が生い茂るその姿は命の源を想起させます。風雨により変化する表情や、夜に浮かび上がる幻想的な存在感に見惚れました。

  • 「やさしい手」(Gentle Hand) – 久保寛子(心字池) 高さ約4メートル、青いブルーシートで覆われた巨大な手が池のほとりに佇む作品。水面に映るその姿はまるで祈りのようで、昼は鮮烈に、夜は柔らかく人々の心に語りかけてきます。災害や再生を象徴する素材を使うことで、静かに深いメッセージが伝わってきました。

  • 「Hibiya Ping Pong Platz」– ジャコモ・ザガネッリ(にれの木広場) 公園中央に設けられたユニークな卓球台は、誰でも参加可能なアート作品。イタリア人アーティストによるデザインで、人と人が自然と交流できる場をつくっています。実際にプレイする人々の笑顔や掛け声が、作品そのものを生き生きと動かしていました。

  • 「巣の構造」(The Structure of Nest) – 宮崎啓太(雲形池) 廃車部品を組み合わせて制作された構造物が、鶴の噴水のまわりに広がっています。無機質な素材にも関わらず、自然と調和しながら生命感を感じさせる不思議な作品で、金属と植物が交差する光景には静かな衝撃を覚えました。

夜間ライトアップの魅力

夜になると、公園は昼とはまったく異なる表情を見せます。作品それぞれに照明が施され、光と影の演出により幻想的な空間が広がります。特に《ハイヌウェレの彫像》は、スポットライトに照らされたひび割れた土の肌が彫刻の陰影を強調し、見る者の想像力をかき立てます。《やさしい手》も水面に青く映り込み、その光景に見入る人々の姿が印象的でした。

また、第一花壇の《流れを生む森》も夜間は内部から柔らかな光を放ち、静かに息づく植物たちがまるで生きているように感じられました。都会の真ん中で、光に包まれながら自然と一体になれるこの感覚は、非日常の贅沢なひとときでした。

まとめ:公園がもたらすアート体験の意義

日比谷公園がアートの舞台となることで、都市における「公園」の可能性が大きく広がったことを実感しました。作品を巡りながら公園全体を散策する体験は、まるで街のなかに迷い込んだ美術館のよう。子どもから大人まで誰もが自分なりの楽しみ方で参加できる、開かれた芸術のかたちがここにはあります。

卓球を通じた交流、草地で寝転ぶ人々、写真を撮るアートファン、花の香りに包まれた静かな散歩道──すべてがひとつの空間に共存しているのが、このイベントの最大の魅力です。専門知識がなくても感覚で楽しめる展示内容は、アートをもっと身近にしてくれます。

「Hibiya Art Park 2025」は、都市・自然・人間をつなげる新しいアート体験のかたちです。どこか懐かしく、でも新しい。来年以降の継続も心から願いたくなる、そんな素敵な時間を過ごすことができました。日常に少し疲れたとき、またこの空間に戻ってきたくなる。そう思える公園とアートの出会いでした。

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