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Tokyo Prototypeとは何か

Tokyo Prototypeは、完成された未来像を展示するイベントではない。
少なくとも、私が体験した限りここで提示されているのは、社会実装の一歩手前、あるいは思考や技術が形になりかけた段階の「プロトタイプ」だ。

AI、テクノロジー、アート、研究、プロダクト。
それらが分野ごとに整理されることなく、都市の中に持ち込まれ、来場者は説明を読むより先に、身体ごとその空間に放り込まれる。

完成していないからこそ、問いが残り、議論が生まれ、熱がこもる。
Tokyo Prototypeは、未来を見せる場ではなく、未来に対する人々の関心や不安、期待そのものが可視化される場だ。

想像の何倍もの混雑から始まった夜

訪れたのは2026年1月30日、金曜日の夕方から夜にかけて。
正直に言って、想像していた何倍も混雑していた。

ただ人が多いだけではない。
会場全体に、明確な熱気がある。
多くの来場者が作品の前で立ち止まり、スタッフに質問し、説明を聞き、実際に体験する。その姿があちこちで見られた。

「ちょっと先の未来」が、好奇心の対象ではなく、
自分ごととして掴もうとされている。
その空気感が、この夜のTokyo Prototypeを強く印象づけていた。

池坊 / BAUMX / enigma|49F SKY GARDEN

TOKYO NODEについては、開業イベントからこれまで何度も記事にしてきた。
だが、SKY GARDENはなかなか行く機会がなく、今回が初めてだった。

行くまでに長蛇の列。
20時30分を過ぎて屋上に上がった瞬間、眼下に広がる圧倒的な東京の夜景と同時に、身体に突き刺さるような寒さが押し寄せてくる。

いけばな、空間、テクノロジー。
それらが、演出された仮想空間ではなく、現実の都市の風景そのものと重なり合う。
風や寒さ、屋外という制御しきれない環境を含めて成立する展示だった。

未来を強調する派手さはない。
だが、すでに存在している東京の景色に、未来が静かに重ねられている。
SKY GARDENという場所が、TOKYO NODEの中で生き続けてきた理由を、初めて身体で理解できた体験だった。

bit.studio|46F TOKYO NODE HALL

46階のTOKYO NODE HALLでは、空間のスケールが一気に変わる。
暗がりの中、AIによって制御された魚群が宙を舞い、その背後には大きなガラス張りの窓と東京の夜景が広がっている。

人工的に制御された存在と、現実の都市の光。
その二つが重なることで、現実と仮想の境界が曖昧になっていく。

ただ美しいだけではない。
どこか現実感が薄れていくような、不思議な没入感がある。
「これぞ未来」という言葉が、ここまで素直に浮かぶ体験はそう多くない。

混雑で立ち止まれない瞬間すら、人の流れや視線の動きとして、展示の一部に組み込まれているように感じられた。

藤堂 高行|45F ARRIVAL HALL

この展示は、今までに体験してきたロボット表現とは明らかに異なっていた。

ロボットの犬自体は珍しくない。
だが、ここにいるのは可愛さや賢さを前提とした存在ではない。
獰猛で、常に人に襲いかかろうとする存在だ。

大きな鎖に繋がれ、人に向かって突進し、鎖の限界で跳ね返り、横転し、絡まった鎖を自力で解いて、また別の人へ向かっていく。

展示だと分かっていても、身体が先に反応してしまう。
正直に言って、怖い。

だが、その恐怖こそが、この作品の核心だ。
便利で安全な未来像ではなく、人間が向き合わざるを得ない存在としてのテクノロジー。
それをここまで生々しいリアリティで突きつけてくる展示は稀だ。

「未来の距離感」

この3つの展示に共通していたのは、未来を「遠くの完成形」として見せていなかったことだ。

夜景とともに静かに立ち上がる未来。
都市と溶け合い境界を曖昧にする未来。
恐怖として身体に迫ってくる未来。

どれも、「いつか来る未来」の説明ではない。
すでに私たちのすぐ隣に立ち始めている未来を、風景や身体感覚として体験させていた。

Tokyo Prototypeが投げかけていたのは、
夢のような未来像ではなく、
触れられる距離まで来てしまった未来と、どう向き合うのかという問いだった。

各階に広がる、現在進行形のプロトタイプ

B2F|STATION ATRIUM / CAFE / GLASSROCK

この階の展示は
TASKO × Abstract Engine、ZOZO NEXT、PHIARO CORPORATION。

地下階では、未来がもっとも都市と地続きの形で提示されていた。
劇場の記憶を呼び起こす音の体験、ファッションR&Dの試作、MRとリアルを往復するドライバー体験。
どれも「未来的」ではあるが、同時に「すでに始まっている」ものでもある。

説明を読むより先に、背景を聞きたくなる余白がある。
来場者が自然とスタッフに質問している光景は、この階から始まっていた。

7F|SKY LOBBY

この階の展示は
130 onethirty / MagnaRecta inc.。

7階は、展示を見るための階というより、移動の途中で身体感覚を切り替える場所だった。
通過点でありながら、確実に意識を引き戻すプロトタイプが置かれている。

展示と日常、その境界が最も曖昧になる階だ。

8F|LOBBY / LAB / CAFE

この階の展示は
XR、生成AI、研究、アート、プロダクトが一気に集積したフロアであり、
本展でもっとも多様な出展が集中していた階だ。

この日もっとも混雑していたのが8階だった。
理由は明確で、ここにあるのは完成形ではなく、境界線を揺さぶる試作ばかりだからだ。

現実と仮想の輪郭を曖昧にする展示、
アバターの視線に「見られている」感覚を覚える展示、
音や素材、電気の小ささで空間の感情を動かす展示。
さらに、iMac G3という過去の制約を起点に現在を見直す試みや、AIレースゲームといった“遊び”もある。

8階で印象的だったのは、
作品の前に立ち止まる時間よりも、
スタッフと話している時間の長さだった。

それは作品が難しいからではない。
むしろ逆で、ここに並んでいる展示の多くは、
「何をしているか」は感覚的に分かる。

だが同時に、
「なぜそうしたのか」「どこまでを想定しているのか」「これはどこへ向かうのか」
という問いが、必ず残る。

完成品ではなく、境界を揺さぶる試作だからこそ、
見る側は受け身でいられない。
理解するには、作り手の思考に踏み込む必要がある。

8階の熱気は、展示の数や派手さだけで生まれているのではない。
問いを投げ返される構造そのものが、人を集め、会話を生み、場を過密にしていた。

45F|ARRIVAL HALL

この階の展示は
GOOGLE HARDWARE DESIGN STUDIO、Spline Design Hub

ここでは未来が「体験」から「思想」へと切り替わる。
長く使われるプロダクトとは何か、時間という不可視の存在をどう扱うのか。
派手さはないが、持続する問いが置かれている。

46F|LOBBY

この階の展示は
DLX Design Lab、KMD Embodied Media

20時30分頃訪れたが、すでに入場待機列が締切だった。見られなかった、という事実が残る。
だがそれは、このイベントが「いつでも同じ未来を見せる場ではない」ことを示している。

時間によって体験できる未来が変わる。
その構造自体が、プロトタイプらしさを物語っていた。

47F|LOBBY / ROOM / GARDEN

この階の展示は
xlab、森田崇文、Abstract Engine。

派手な未来を語るのではなく、感覚そのものを静かに書き換えていく展示が並ぶ。
素材、音、映像、視覚。
どれも立ち止まらせ、考えさせるタイプの体験だ。

上階と下階をつなぎ、身体の内側に未来を引き込む役割を担っているように感じられた。

おわりに

すべてを見られなかったこと。
混雑で立ち止まれなかったこと。
寒さを感じながら屋上に立ったこと。

それらすべてを含めて、Tokyo Prototypeだった。

完成された未来ではなく、
試作のまま、熱を帯びたまま提示される未来。
この夜に見たのは、未来そのものではなく、
未来へ向かって動き続ける東京の現在だった。

未来を分かりやすく教えてほしい人のためのイベントではない。
未来について、まだ言葉になっていない違和感を抱えている人のための場所だ。

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