「ルイーズ・ブルジョワ展」—地獄から甦る芸術の衝撃
-地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ-
2024年9月25日から2025年1月19日まで、東京・六本木の森美術館で「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」が開催されています。本展は、20世紀を代表するアーティスト、ルイーズ・ブルジョワの日本で27年ぶりとなる大規模な個展であり、彼女の多彩な作品群を通じてその芸術世界を深く探求する貴重な機会となっています。
ルイーズ・ブルジョワとは
ルイーズ・ブルジョワ(1911年パリ生まれ、2010年ニューヨークにて没)は、70年にわたるキャリアの中で、インスタレーション、彫刻、ドローイング、絵画など多様なメディアを駆使し、男性と女性、受動と能動、具象と抽象、意識と無意識といった二項対立に潜む緊張関係を探求しました。彼女の作品は、幼少期の複雑な家庭環境やトラウマ的な経験をインスピレーションの源とし、記憶や感情を普遍的なモチーフへと昇華させています。また、セクシュアリティやジェンダー、身体をテーマにした作品は、フェミニズムの文脈でも高く評価されています。
展覧会の構成
第1章「私を見捨てないで」:母親との関係に焦点を当て、見捨てられることへの恐怖や母性の複雑性を探求した作品群を紹介します。例えば、《自然研究》(1984年)は、母と子の関係性を象徴的に表現しています。
第2章「地獄から帰ってきたところ」:父親との確執や内なる葛藤、不安、罪悪感など、心の内にあるさまざまな否定的な感情を表現した作品が展示されています。代表作《父の破壊》(1974年)は、父親への複雑な感情を具現化したインスタレーションです
第3章「青空の修復」:壊れた人間関係の修復と心の解放をテーマに、回復と再生の力を表現した作品が並びます。《トピアリーIV》(1999年)や《雲と洞窟》(1982-1989年)は、その象徴的な作品です。
さらに、各章をつなぐ2つのコラムでは、初期の重要作品を年代順に紹介しています。特に、ニューヨーク移住後約10年間に制作された初期絵画作品は、近年世界的に高い関心を集めており、本展でも10点以上がアジア初公開となります。
注目の作品
《ヒステリーのアーチ》(1993年):感情の爆発と制御の狭間を象徴するアーチ状のインスタレーション。精神の緊張と解放を表現しています。
《蜘蛛》(1997年):母親を象徴するこの作品は、母性の保護と恐怖の二面性を描き出しています。
《シュレッダー》(1983年):細断された紙が床に広がる作品で、記憶の断片化と破壊のプロセスを表現しています。
《拒絶》(2001年):拒絶されることの恐怖と孤立感をテーマにした彫刻作品。鋭い棘が突き出た形状が印象的です。
《カップル》(2003年):男女の関係性を表現した作品で、愛と依存、そしてその複雑な感情の絡み合いが描かれています。
《トピアリー IV》(1999年):庭園の彫刻を思わせる作品で、自然の再生力と人間の創造力を象徴しています。
《堕ちた女[ファム・メゾン(女・家)]》(1946-1947年):女性と建物が合体した絵画で、女性のアイデンティティと家庭の関係性を探求した作品です。このシリーズは、1960-70年代のフェミニズム運動で高く支持されました。
《父の破壊》(1974年):横柄で支配的な父親の像を食すことで復讐を果たすという幻想を表現したインスタレーション作品で、ブルジョワの芸術活動の一つの頂点とされています。
ブルジョワの言葉と関連プログラム
ブルジョワは才能ある文筆家でもあり、膨大な日記や手紙、精神状態を分析した記録が残されています。本展では、彼女の作品に加え、これらの言葉も会場各所に掲出し、彼女の世界観をより深く理解できる構成となっています。
また、言葉を用いた作品で知られるコンセプチュアル・アーティスト、ジェニー・ホルツァーが、ブルジョワの言葉を使用した新作を本展のために制作し、展示されています。さらに、ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで活躍したスーザン・クーパーが出演した、ブルジョワのパフォーマンス《宴/ボディ・パーツのファッションショー》の記録映像も展示されています。
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