引田地区|瀬戸内国際芸術祭2025 第2回:港町に響く手袋と大漁旗の物語
はじめに
2025年8月13日。女木島を巡ったあと、私は今回初めて芸術祭の舞台に加わった「引田地区」を訪れました。香川県東かがわ市のこの港町は、手袋産業で栄えた歴史を持ちつつ、今は人口減や高齢化の波にさらされています。普段なら訪れることのなかった土地に、アートを通じて触れることができたこと自体が貴重な体験でした。古い町並みや産業の記憶を舞台に、新しい表現が重ねられていく時間を振り返ります。



印象的な作品と作家たち
みんなの手 ― 月まで届く手袋を編もう!(レオニート・チシコフ+マリーナ・モスクヴィナ)
ロシアのアーティスト、レオニート・チシコフと、作家であるマリーナ・モスクヴィナによる夫婦の共同展示。古い建物の空間に、地域の人々が布で編んだ無数の手袋が吊るされ、物語とイメージが融合した温かなインスタレーションとなっていました。
私は2022年の芸術祭でもチシコフの幻想的な作品に惹かれましたが、今回は夫婦によるコラボレーションという点が印象的で、個人の表現にとどまらない親密さと広がりが感じられました。









KASAYAソーシャル/パフォーマンス・スペース+アートワーク(ラックス・メディア・コレクティブ)
インド・ニューデリーを拠点とするアーティストグループ、ラックス・メディア・コレクティブによる作品。かつて酒蔵だった建物を舞台に、発酵や記憶をテーマに光と空間を使ったインスタレーションが展開されました。
桶の内部から放たれる光が床から立ち上がり、空間全体を満たす様子は神秘的で、時間がゆっくりと発酵していくような感覚を覚えます。歴史ある建築と現代アートが共鳴し、土地の記憶に新たな命を吹き込む展示でした。





積層される情報(沼田侑香)
引田の港町が直面する高齢化や人口減少、通信手段の変化。それによって役割を失いつつある大漁旗に注目した沼田侑香の作品です。
アイロンビーズやプラスチックごみといった現代的な素材を使い、大漁旗を再構築。かつて港町の誇りであった旗と、現代の消費社会の象徴を重ね合わせることで、時代の変化が可視化されていました。夕暮れや夜に照らされると、その色と光がさらに際立ち、過去と現在をつなぐ鮮やかなメッセージとなっていました。


引田地区を巡って感じたこと
初めて訪れた引田の町は、アートを介してその歴史や文化に触れることができました。手袋産業の記憶を作品として昇華した展示、酒蔵を舞台にした幻想的な光の空間、そして大漁旗を現代の素材で再構築する試み。いずれも、この町の過去と現在、そして未来を考えさせるものでした。
芸術祭がなければ訪れることのなかった場所に、こうして新たな価値を見いだせたこと自体が、今回の旅の大きな収穫でした。

まとめ
引田地区での展示は、土地の歴史や産業の記憶を深く掘り下げながら、現代の社会課題や変化を重ね合わせるものばかりでした。地域に根づいた文化とアートが融合し、訪れる人に「知る喜び」と「考えるきっかけ」を与えてくれました。
この記事はシリーズ第2回。次回は8月15日に訪れた「直島」での体験をお届けします。芸術祭を象徴する作品群と、再訪ならではの新しい視点を紹介していきます。
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