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《ROOM KEY》に配置された真っ赤な彼岸花

2026年10月18日、日曜日の13時ごろ。JR川口駅の西口を出て2分ほど歩くと、ガラス張りのエントランスが見えてきました。この9月に開館したばかりの川口市立美術館です。

川口市立美術館のエントランス外観

実は、川口を訪れるのは今回が初めて。どんな街なのかもよく知らないまま来たのですが、新しい美術館はとてもきれいで、気持ちのいい場所でした。

お目当ては、開館記念特別展「蜷川実花展 はじまりの光」。下北沢の古民家での展示や京都・北野天満宮のアートフェスティバルなど、蜷川実花さんの展示にはこれまで何度も足を運んできました。でも今回は、そのどれとも違う、静かで、とても個人的な展覧会でした。オンラインで買ったチケットで入場し、滞在は約2時間。会場は混雑しておらず、一つひとつの作品とゆったり向き合うことができました。

蜷川実花展 はじまりの光 の看板

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蜷川実花展「はじまりの光」とは?

蜷川実花展 はじまりの光 会場入口のメインビジュアル

「蜷川実花展 はじまりの光」は、川口市立美術館の開館を記念した特別展です。川口は、父で演出家の蜷川幸雄さん(1935〜2016)が生まれ育った土地。蜷川実花さん自身も、幼いころに父方の実家があったこの街で多くの時間を過ごしています。

その川口を舞台に、「写真」「家族」「川口」という個人的な記憶から、自らの表現の源流をたどる構成になっています。

  • 第一章:写真を軸にした6つのシリーズ。沖縄の海のモノクロ写真、約30年撮り続けてきたセルフポートレート、父の最期の日々を記録した《うつくしい日々》など
  • 第二章:父・蜷川幸雄さんの書斎を移設・再構築したインスタレーション《ROOM KEY》。母でキルト作家の蜷川宏子さんの作品や、新作シリーズ《First Light》も一緒に展示

蜷川実花さんといえば、鮮やかな色彩のイメージが強い作家です。けれど本展について本人は、あえて色彩から離れ、写真そのものをしっかり見せることに挑戦したと語っています。会場を歩くと、その言葉の意味がよくわかります。

第一章:色彩を手放して「写真」と向き合う

入ってすぐのアトリウム《Dancing with Shadows in the Light》

最初の展示空間は、天井の高い吹き抜けのアトリウムです。ここが、今回いちばん心をつかまれた場所でした。

アトリウムに展示された蜷川実花《Dancing with Shadows in the Light》

暗い壁にスポットライトで浮かび上がるのは、10点のモノクロ写真。蜷川実花さんが自ら沖縄の海へ繰り返し潜って撮った、初めての水中作品です。このためにダイビングのライセンスを取り、1年半ほどで約70回潜ったそうです。

蜷川実花《Dancing with Shadows in the Light》沖縄の海のモノクロ写真

降り注ぐ光の筋、群れて泳ぐ魚、波間の泡、海底のサンゴ。そして見上げると、吹き抜けの上のほうに映像(9分51秒のループ上映)が浮かんでいます。天井に海の揺らぎが映っているようで、まるで自分も海の底から水面を見上げているような感覚になりました。

アトリウムの吹き抜け上部に投影された海の映像

まぶしい光と、その奥にある深い闇。生と死といった相反するものを一枚に収める視線は、色彩豊かなこれまでの作品にも通じているのだと、会場の解説で紹介されていました。いきなり「白と黒の蜷川実花」に出会う、印象的な幕開けです。

展示室1《VIRA》と《Everlasting Flowers》

展示室1に進むと、白い壁に色が戻ってきます。《VIRA》は2026年制作の16点で、青を背景にした花や、きらめく水面の写真が並んでいます。モノクロのアトリウムを抜けたあとだけに、色の鮮やかさがいっそう目に飛び込んできました。

蜷川実花《VIRA》展示室1の展示風景

蜷川実花《VIRA》展示室1の展示風景

奥の《Everlasting Flowers》は、メキシコやグアム、サイパンなどの墓地に手向けられた造花を撮ったシリーズです。プラスチックや布でできた、枯れないはずの花。それでも日差しや雨風にさらされ、少しずつ色あせていきます。52点が壁一面にびっしりと並ぶ光景は圧巻でした。

蜷川実花《Everlasting Flowers》墓地の造花を撮影したシリーズ

撮影禁止の《First Light》と《Self-image》

展示室1のうち、この2つのシリーズは撮影禁止です。

《Self-image》は、デビュー以来およそ30年にわたって撮り続けてきたセルフポートレート。三脚とセルフタイマーで、一人きりで撮影するそうです。部屋全体は白黒が基調なのですが、そのなかで「赤」がとても印象的に使われていて、たくさんの写真が並ぶなかでも赤の存在が際立っていました。色とりどりの作品で知られる蜷川さんだからこそ、一点の赤がこんなに強く残るのかもしれません。

《First Light》は本展で初公開の新シリーズです。実家で見つけた若き日のご両親のアルバム、約70年前の小さな写真を、蜷川さんがマクロレンズで撮り直しています。

展示室2《うつくしい日々》

もうひとつ、強く心に残ったのがこの部屋です。

《うつくしい日々》は、2014年に父・蜷川幸雄さんが倒れてから、2016年に亡くなるまでの約1年半、病院へ見舞う行き帰りに撮影された写真を中心にしたシリーズです。同じころ、蜷川さんの傍らには生まれて間もない次男がいました。始まったばかりの命と、終わりへ向かう命。その両方を見つめる時間だったのだと思います。

蜷川実花《うつくしい日々》展示室2

部屋には54点の写真と、壁に直接記された12のテキストが並びます。満開の桜、芽吹いたばかりの新緑、白い花、横断歩道に伸びる影。どれも何気ない風景なのに、亡くなるその時まで綴られていく流れを追っていくと、一枚一枚がまぶしく、かけがえのないものに見えてきます。正直、ジーンとくるものがありました。

蜷川実花《うつくしい日々》写真とテキストの展示

第二章:父の書斎を再構築した《ROOM KEY》

階段を下りてM2階へ。照明を落とした空間は、それまでの白い展示室とは雰囲気ががらりと変わります。ここが本展のクライマックスです。

蜷川実花《ROOM KEY》M2階の展示空間

《ROOM KEY》に配置された真っ赤な彼岸花

空間のあちこちに咲く、真っ赤な彼岸花

まず目に飛び込んでくるのが、彼岸花の赤です。空間の各所に配置されていて、どこを歩いていても視界のどこかに鮮烈な赤があります。この赤が、ROOM KEY全体の空気をつくっていると感じました。彼岸花は、蜷川幸雄さんの舞台でよく使われた花だそうです。

《ROOM KEY》に配置された真っ赤な彼岸花

《ROOM KEY》に配置された真っ赤な彼岸花

《ROOM KEY》に配置された真っ赤な彼岸花

天井からは、大きく引き伸ばされた若き日のご両親の写真が吊るされています。展示室1では撮影できなかった《First Light》の世界が、ここでは空間いっぱいに広がっています。写真には「川口 俺たちの家」という手書きの文字も重ねられていました。

《First Light》若き日の両親の写真

《First Light》若き日の両親の写真

《First Light》若き日の両親の写真

《First Light》若き日の両親の写真

《First Light》若き日の両親の写真

膨大な物で埋め尽くされた書斎が、アート空間に

中心にあるのが、蜷川幸雄さんの書斎を移設・再構築した《ROOM KEY》です。愛用の机を中心に、膨大な本や台本、合田佐和子さんの絵画、四谷シモンさんの人形、西洋名画の複製、演劇や映画のポスター。「Ninagawa」の文字が光るネオンや、カラフルな人形、おもちゃもぎっしり詰め込まれています。

蜷川幸雄の書斎を再構築した《ROOM KEY》

とにかく物の量がすごいのに、雑然とした印象にはならず、ひとつのアート空間として見事に仕上がっていました。

手前には水槽のようなガラスケースがいくつも並び、その一つひとつにアート作品や小道具が散りばめられています。覗き込むたびに、また違う小さな世界が現れます。

《ROOM KEY》ガラスケースに散りばめられた作品

《ROOM KEY》ガラスケースに散りばめられた作品

左右と奥に広がるキルトと、土星のネオン

書斎の左右と奥には、着物を思わせる色鮮やかな布が吊り下げられた空間があります。これは母でキルト作家の蜷川宏子さんのキルト作品です。さらに奥には、舞台装置として使われた「土星」のネオンサインが光っています。

蜷川宏子のキルト作品と土星のネオンサイン

蜷川宏子のキルト作品と土星のネオンサイン

彼岸花、書斎、ガラスケース、キルト、ネオン。それぞれがつながって、世界観がどこまでも広がっていきます。まさに「これぞ蜷川実花」という世界でした。もちろん、色使いは最高です。

日常のなかにあったものと、舞台の上でつくられたもの。父の記憶と、母の作品と、今の蜷川実花さんの視点。それらがひとつの空間で重なり、現実と虚構、過去と現在の境界がゆるやかに溶けていきます。会場の解説にあったこの言葉が、そのまま体感として迫ってきました。

どこを切り取っても絵になる密度で、あとで撮った写真を見返すと、半分以上がこの部屋のものでした。

鑑賞のポイントと撮影ルール

  • 写真・動画撮影は一部を除いてOK。展示室1の《First Light》と《Self-image》のエリアは撮影禁止です
  • フラッシュ、三脚、自撮り棒は使えません。作品に近づけての接写や、長時間の場所の占有も控えましょう
  • 所要時間は、じっくり見て約2時間。とくにROOM KEYは見どころが多いので、時間に余裕をもって行くのがおすすめです
  • 日曜の昼過ぎでも混雑はなく、ゆったり鑑賞できました
  • チケットはオンライン購入なら当日券より200円お得です

川口市立美術館はどんなところ?

川口市立美術館は、2026年9月12日にグランドオープンしたばかりの新しい美術館です。JR川口駅西口から徒歩2分、川口総合文化センター・リリアの隣にあります。

館内は1階、M2階、2階の3フロア構成。2階にエントランスと2つの展示室、レストラン、ショップがあり、M2階には展示ホールとライブラリーがあります。内装の一部には、川口の伝統産業である鋳物が使われているそうです。駅からすぐなのに落ち着いた雰囲気で、初めての川口で、思いがけずいい場所に出会えました。

よくある質問

所要時間はどのくらい?

全体をじっくり見て約2時間でした。写真をゆっくり見たい人や、ROOM KEYで細部まで見たい人は、もう少し余裕があると安心です。

写真撮影はできる?

一部を除いて撮影可能です。展示室1の《First Light》と《Self-image》は撮影禁止です。M2階のROOM KEYは撮影できました。

チケットはどこで買える?

美術館のオンラインチケットか、当日券で入場できます。一般はオンライン1,800円、当日2,000円です。

展覧会基本情報

項目内容
展覧会名川口市立美術館 開館記念特別展「蜷川実花展 はじまりの光」
会期2026年9月12日(土)〜11月29日(日)
会場川口市立美術館
住所埼玉県川口市川口3-1-2
アクセスJR京浜東北線「川口駅」西口から徒歩2分
開館時間10:00〜18:00(展示室への入場は閉館30分前まで)
夜間開館10月・11月の第2・第4金曜日は20:00まで
休館日月曜日(祝日の場合は翌平日)。9月21日、10月12日、11月23日は開館
観覧料(オンライン/当日)一般 1,800円/2,000円、大学生 1,300円/1,500円、高校生 800円/1,000円、中学生以下無料
撮影一部を除き可(《First Light》《Self-image》は不可)
主催川口市

まとめ

色彩の作家として知られる蜷川実花さんが、海の底のモノクロ写真から始まり、父を見送った日々、そして父の書斎へとたどり着きます。「はじまりの光」は、その名のとおり、表現の原点にある光を静かに見せてくれる展覧会でした。

これまで華やかな作品を見てきた人ほど、きっと新しい一面に出会えるはずです。会期は11月29日まで。開館したばかりの川口市立美術館とあわせて、ぜひゆっくり時間をとって訪れてみてください。

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