江之浦測候所 春分光遥拝の会2026 杉本博司が仕掛けた「光の軸線」で迎える春分の日の出
江之浦測候所の「春分光遥拝の会」は、春分の日の出を杉本博司が設計した光学硝子舞台の軸線上で迎える年1回限りの特別イベント。完全抽選制で倍率も高く、参加できるだけで貴重な体験だ。2026年3月20日、4回目の訪問にして初めてこの会に当選。曇天で日の出こそ見えなかったものの、早朝の相模湾と静寂に包まれた施設の空気は格別だった。
朝4時に家を出て、春分の日の出を迎えに行った
2026年3月20日、春分の日。まだ夜が明けきらない朝4時に自宅を出発した。目指すのは、小田原市にある杉本博司の江之浦測候所。年に4回だけ開催される「光遥拝の会」に参加するためだ。
江之浦測候所にはこれまで3回ほど足を運んでいるけれど、今回は少し特別。春分の日の出を、杉本博司が設計した「光の軸線」の上で迎えるという、この施設でしか味わえない体験が待っていた。前回訪れたのは2024年の夏至光遥拝の会。約2年ぶりの江之浦測候所だ。
高速道路はまだ空いている。真っ暗な道を走りながら、ワクワクする気持ちと「天気、大丈夫かな」という不安が交互にやってくる。当日の天気予報は雨が降ったり止んだりの不安定な空模様。正直なところ「今日は厳しいかもしれない」という予感はあった。
5時ちょうどに現地に到着。車のドアを開けた瞬間、3月の早朝の空気がひんやりと頬に触れた。冷たいけれど澄んでいて、どこからか潮の香りが混じっている。駐車場にはすでに何台か車が停まっていて、同じように早起きしてきた人たちの姿があった。日の出予定時刻は5時47分。まだ50分近くある。空を見上げると雲が厚い。それでも、ここまで来たからには最後まで見届けたい。そんな気持ちで会場へ向かった。


江之浦測候所の「光遥拝の会」とは
年に4回だけ開催される特別な朝の会
江之浦測候所では、春分、秋分、夏至、冬至の年4回、日の出に合わせた特別イベント「光遥拝の会」が開催されている。通常の見学では体験できない、早朝の施設に入れる貴重な機会だ。
参加は完全抽選制で、毎回かなりの人気を集めている。申し込んでも当選できないことが多く、今回は運よく当選できたのでとても楽しみにしていた。
それぞれの回で見どころが異なるのもこの会の面白いところ。夏至は100メートルギャラリーの軸線上に日が昇り、冬至は光遥拝隧道を朝日が貫く。そして春分と秋分は、光学硝子舞台が主役になる。


春分の日の出と光学硝子舞台の関係
江之浦測候所の建築には、太陽の動きと深く結びついた設計思想が貫かれている。
相模湾に向かって突き出すように設置された「光学硝子舞台」。この舞台の軸線は、春分と秋分の日の出の方角にぴたりと合わせて設計されている。晴れた日には、水平線から昇った太陽の光がガラスの舞台を貫き、一直線の光の道が出現する。杉本博司が仕掛けた「光の装置」が、年に2回だけ完成する瞬間だ。
現代美術家であり写真家でもある杉本博司は、この施設を構想に10年、建設に10年かけて作り上げた。そして本当の完成は5000年後だという。ガラスは割れ、建物は廃墟となっても、遺跡として美しく残ることを目指している。そんなスケールの大きさも、この場所の魅力だと思う。
当日の流れと日の出の瞬間
5:30開場、鳥の声だけが響く早朝の施設へ
5時30分に開場。参加者たちは配布されたMAPに従って、指定の鑑賞エリアへと進む。日の出の時間帯は安全のため立ち入り制限エリアが設けられており、光学硝子舞台の周辺や石舞台付近から日の出を待つ形になる。
まだ薄暗い施設内を歩くのは、通常の見学とはまったく違う雰囲気だった。昼間に訪れたときとは空気そのものが違う。聞こえてくるのは鳥の声だけ。人の気配はあるのに、誰もが声を潜めていて、施設全体が静かな緊張感に包まれている。冷たく澄んだ朝の空気に、かすかに潮の匂いが混じる。相模湾がすぐそこにあることを、鼻が教えてくれる。
東の空をじっと見つめながら立っていた。ワクワクする気持ちと、この厚い雲で本当に日の出が見えるのかという心配と。周りの参加者も同じだったと思う。カメラを構える人、ただじっと立っている人、それぞれのスタイルで日の出の瞬間を待っていた。

厚い雲の向こうに微かな光の柱
5時47分。本来なら、相模湾の水平線から太陽が昇り、光学硝子舞台の軸線を光が貫く。そんな劇的な瞬間が訪れるはずだった。
しかし、この日は厚い雲が空を覆っていた。雨こそ降らなかったものの、水平線付近は完全に雲の中。残念ながら、日の出の瞬間を直接見ることはできなかった。
それでも、遠くの海の上に雲の切れ間から差す光の柱が微かに見えた。太陽はたしかにそこにいる。雲の向こうで、春分の朝日は予定通りに昇っていた。
完璧な日の出を見ることはできなかったけれど、この「見えそうで見えない」という体験もまた、自然を相手にしたイベントならではのもの。杉本博司が設計した光の軸線は、晴れた日にだけ完成する。だからこそ、その瞬間に立ち会えたときの感動は計り知れないのだろう。




日の出の後に巡る江之浦測候所
日の出の時間が過ぎた後は、施設内を自由に散策できる。滞在時間はトータルで1〜2時間ほど。早朝の柔らかい光の中で見る江之浦測候所は、昼間とはまた違った表情を見せてくれる。
今回特に印象に残ったのは、やはり光学硝子舞台と石舞台だった。日の出は見えなかったけれど、曇り空の下で相模湾を背にした光学硝子舞台は、それだけで十分に美しい。ガラスの表面に空のグレーが映り込んで、晴れた日とはまた違う静謐な雰囲気がある。





石舞台から眺める相模湾も、早朝ならではの景色だった。昼間は観光客で賑わうこの場所も、朝はひっそりとしていて、海と空の境界が曖昧な曇り空の下で、どこか異世界のような空気を纏っている。
室町時代に建てられ、関東大震災で半壊した後、根津美術館の正門を経てこの地に再建された「明月門」。茶室「雨聴天」。4回目の訪問でも新しい発見があるのが江之浦測候所の面白いところだ。季節や時間帯、天候によって見え方がまったく変わるから、何度訪れても飽きることがない。





光遥拝の会に参加するには
申し込み方法と抽選について
光遥拝の会への参加は、小田原文化財団の公式サイトから事前に申し込む。開催日の数ヶ月前に募集が始まり、応募者多数の場合は抽選となる。
毎回かなりの倍率になるようなので、こまめに公式サイトをチェックしておくのがおすすめ。春分、秋分、夏至、冬至の年4回チャンスがあるので、気になる方はすべての回に申し込んでみるのもひとつの手だ。




当日の持ち物・服装・アクセス
春分の会は3月開催のため、早朝はかなり冷え込む。実際に行ってみて、防寒対策は本当に大事だと実感した。
- 暖かい上着(ダウンジャケットなど。朝5時台の海沿いは想像以上に寒い)
- 手袋、マフラー
- 歩きやすい靴(施設内は坂道や石段が多い)
- カメラ(三脚が使えるかは事前に確認を)
- 懐中電灯(早朝は足元が暗い場所もある)
車で向かう場合、朝4時台の出発を目安にすると余裕を持って到着できる。駐車場は施設に用意されているが、台数に限りがあるため早めの到着がおすすめ。




江之浦測候所 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 小田原文化財団 江之浦測候所 |
| 住所 | 神奈川県小田原市江之浦362-1 |
| 開館 | 2017年10月 |
| 設計 | 杉本博司 / 新素材研究所 |
| 見学方法 | 完全予約制(午前の部 10:00〜13:00 / 午後の部 13:30〜16:30) |
| 入館料 | 事前購入 3,300円 / 当日 3,850円 |
| 年齢制限 | 中学生未満は入館不可 |


まとめ
今回の春分光遥拝の会は、残念ながら日の出を見ることができなかった。でも、鳥の声と潮の香りだけが漂う早朝の江之浦測候所で、雲の向こうに微かな光の柱を見た体験は、これはこれで忘れられないものになった。
杉本博司が設計したこの場所は、自然と人間の関係を問い直す装置のような存在だ。天候という人間にはコントロールできないものに委ねられた結果もまた、ここでの体験の一部なのだと思う。
次こそは、光学硝子舞台の軸線を貫く春分の朝日を見たい。また抽選に申し込もうと思う。


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