【大阪・関西万博2025|初日体験記・後編】
― 世界をめぐる空間体験 ― フランス館で見た未来のエレガンスと、嵐のなかの夕日




はじめに:アートと建築を追って、次に向かったのは「世界の感性」
シグネチャーパビリオンで“いのち”や“静けさ”と対話したあと、足を向けたのは、各国がそれぞれの文化と美意識を空間化した海外パビリオン群。
アートと建築が好きな私にとって、ここはまさに**「空間を旅する展覧会」**のようなものでした。
その中でも、ひときわ心を震わせたのが――フランス館。


フランス館:詩的で洗練された“未来のエレガンス”がそこにあった
入口に一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。
柔らかくも芯のある静けさ、光と影が編み上げるリズム、どこか香り立つような質感の演出。
この空間が目指していたのは、単なる展示ではなく、**「文化が未来に語りかける体験」**そのものでした。



展示は、アート・ファッション・テクノロジーが詩的に融合して構成されています。
鏡のように折り返す壁面、感覚を揺らす映像、静かに呼吸するようなインスタレーション。
そこには、「フランスらしさ」の記号に頼らない、むしろそれを超えた**“美学の未来形”**が息づいていました。














特に印象に残ったのは、ファッション展示のあり方。
2023年に訪れたDIOR展を思い起こさせるような空間美の中で、服飾は単なる衣類ではなく、歴史・記憶・思想をまとうメディアとして表現されていました。

すべての演出が控えめでありながら、深く沁み込む。
説明は最小限にとどめられ、観る者の感性に委ねられる設計が、「語らずして伝える」フランスの精神性を体現していました。












展示を終えて外に出たとき、待機列は2時間半超え。
その列の長さが、この空間の密度と豊かさを何よりも物語っていたように思います。
「この体験を、運よくスッと体に取り込めた」――そんな小さな奇跡に、静かに感謝したくなる時間でした。


アゼルバイジャン館:自然と精神が静かに響き合う
次に訪れたのは、自然と精神性の統合をテーマにしたアゼルバイジャン館。
やわらかな光に包まれた内部には、森・大地・水といった生命の要素が、映像や造形を通じて表現されていました。
それはまるで、五感で感じる“祈りの空間”。
国の自己主張というより、**「世界の一部としての人間」**を思い出させてくれる、静謐で美しい展示でした。




スペイン館:知性と遊び心が弾けるアート空間
スペイン館は、ひと言で言えば“体験型アートの遊び場”。
デジタルと映像を駆使したインタラクティブな空間は、訪れる人に自由な発想を促します。
色彩、リズム、動き。
どれもが直感に働きかけ、“学び”と“楽しさ”が矛盾せず共存しているということを、体で感じさせてくれる構成でした。










モナコ館:海といのちを見つめる、小さな瞑想空間
モナコ館はコンパクトな展示ながら、印象の余韻が長く続く不思議な空間。
テーマは“海と生物多様性”。
スクリーンの波音、深海の映像、静かな照明。まるで海底で考えごとをしているような、内省的で哲学的な時間が流れていました。






チェコ館:工業と詩の交差点で未来を描く
チェコ館は、技術と詩的感覚の見事な融合。
展示は洗練され、手触りのある近未来デザインが随所に散りばめられていました。
「ものづくりの国」ならではの美意識が、**“精密なのにあたたかい”**空間として表現されており、感覚のバランスにとても優れた体験でした。

















大屋根リング:嵐の中に射し込んだ、一瞬の光
すべての展示を巡り終え、最後に足を運んだのが大屋根リング。
万博のシンボルでもあるこの巨大構造物は、建築物であると同時に、空間そのものを意味づける存在。
その下を歩いていると、自分もこの構造の一部になったかのような錯覚に陥ります。
この時、空はすでに暴風雨。
傘も役に立たず、全身ずぶ濡れ。それでもその中で、雲が一瞬割れて、差し込んだ夕日の光がリングの内側に反射した瞬間――
風の冷たさも、濡れた服の重さも忘れて、ただその光景に見入っていました。
きっと、この1日の中でもっとも静かで、美しい瞬間だったと思います。






帰路:偶然の“空き”がくれた、やさしい締めくくり
帰ろうとしたそのとき、夢洲駅の混雑情報が流れ込んできました。すでに長蛇の列。
このままでは帰宅にも時間がかかりそうだと思い、急遽、新大阪行きのバスを再検索。
すると――19時発の便に、奇跡のような“空席”が。
前日まで満席だったその枠に偶然滑り込めて、ストレスなく、静かに会場をあとにすることができました。
びしょ濡れの服と、満たされた心と、ほのかに残る夕日の余韻。
そのすべてを抱えて座ったバスの座席が、思いがけず“エピローグの空間”になりました。





























まとめ:アートと建築が、人と世界をつなぐ場所
海外パビリオンを巡る旅は、単に展示を見ることではなく、**“国ごとの美意識を全身で感じる”**体験でした。
そしてそれは同時に、自分が何を美しいと感じるか、どんな価値観に心を動かされるかを見つめ直す時間でもありました。
暴風雨と、奇跡の夕日と、思いがけないバスの空き。
そのすべてが混ざり合った初日の体験は、今後の人生のどこかで、また静かに思い返される気がしています。





「万博は未来を展示する場所」――でもそれだけではなく、そこに立った“自分の今”を映し出す場所でもあるのだと、強く実感した一日でした。


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