Article list

はじめに

2025年4月26日、原宿で開催中のロエベ「クラフテッド・ワールド展」に足を運びました。ロエベ史上初となる大規模展覧会は事前予約制・入場無料とあって大人気で、会場内は多くの来場者で賑わっていました。私自身、ロエベもスタジオジブリ作品も大好きなので、会場に入る前から期待で胸が高鳴ります。入り口からロエベの世界観が全開で、スペイン発祥ブランドならではの陽気な音楽と風景演出に迎えられ、一瞬で非日常の体験への扉が開かれました。

展示空間のデザインは建築設計事務所OMAが手掛けており、階段の手すりにロエベの上質な革が巻かれ、各所に遊び心ある仕掛けが散りばめられています。例えば、2階から1階へ降りる踊り場には好きなステッカーを壁に貼って参加できるコーナーもあり、来場者が五感でブランドの世界を体感できるよう工夫されています。ロエベが培ってきた179年の歴史と伝統、そして最先端のクラフト精神を一度に味わえるこの展覧会は、ファッション好き・アート好きの若者にとっても絶好の機会と言えるでしょう。

見どころ紹介

ロエベ「クラフテッド・ワールド展」は、ブランドの過去から現在までを7つのテーマで構成し、多彩な展示が用意されています。中でもファッションやアート好きが注目すべき主な見どころを以下にまとめます。

見どころ展示内容の概要
スタジオジブリとのコラボ展示「千と千尋」「トトロ」「ハウル」などジブリ作品をテーマにした没入空間。コラボアイテム展示や映画映像演出。
アトリエ体験:職人技の工程公開ロエベのアトリエを再現し、アイコンバッグの製造工程を映像や実物展示で紹介。革の裁断や刻印、刺繍実演も。
触れて楽しむレザー素材壁一面に吊るされた色とりどりの革が並び、実際に手で質感や香りを確かめられるコーナー。素材見本や耐久テスト機器も展示。
ジョナサン・アンダーソン作品2015年~2025年の歴代コレクションから選りすぐりのルック54体を展示。斬新なデザインや貴重なアーカイブ衣装が勢揃い。

スタジオジブリとのコラボレーション展示

ジブリの世界観を表現した没入空間。 会場の一角にはスタジオジブリとのコラボレーションによる魔法のような展示空間が広がっています。ロエベがこれまで手掛けた『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』などジブリ作品のカプセルコレクションの世界を再現した部屋で、劇中のワンシーンを描いたケープや、黒い羽根で覆われたハウルのジャケット、トトロのニットウェアなどが展示されています。周囲のスクリーンにはジブリ映画の映像が投影され、床にはトトロのふかふかした毛並みを思わせるオブジェが設置されており、まるで映画の中に入り込んだかのような没入体験が味わえます。さらに、ロエベが2023年に発売した「ハウルの動く城」バッグを巨大化したレザーオブジェも圧巻で、その表面にはドーナツ型チェーンやハンモックバッグのパーツ、パズルバッグのピースなどロエベを象徴する要素が随所に組み込まれています。映画ファンにとっては胸が躍る仕掛けが満載で、ファッションブランドがアニメーションの世界観をここまで緻密に表現していることに驚かされました。

アトリエ体験:職人技の制作工程公開

ロエベ展の中核とも言えるのが、職人の作業場=ロエベのアトリエを再現したエリアです。ここでは、「パズル」「フラメンコ」「ゲート」バッグといったロエベのアイコンバッグがどのように生み出されるのか、その製造プロセスが丁寧に紹介されています。作りかけのバッグや型紙、革の色見本がずらりと並び、革を裁断する工程やロエベのアナグラム(ロゴ)を刻印する場面が映像で映し出され、まるで工房を覗いているかのようです。熟練の職人による手仕事と最新機械を駆使した工程が可視化されており、普段は目にできないバッグ制作の裏側に思わず見入ってしまいました。

特に興味深かったのは、製品の品質を支える緻密な作業です。例えば、2024年秋冬コレクションで話題を呼んだメロン型クラッチバッグにビーズ刺繍を施す過程が紹介されており、一刺し一刺しビーズを縫い付けていく気の遠くなるような細工に職人技の真髄を感じます。さらに、革製品の耐久性テストを行う機械も展示されていました。色とりどりの革片を自動で曲げ伸ばしし続ける装置や、バッグを振り続けて強度を確認する映像からは、「絶対に脆い製品は作らない」というロエベの強い信念が伝わってきます。その徹底した品質管理とクラフトマンシップに触れ、ブランドへの信頼感が一層高まりました。

触れて楽しむレザー素材

色とりどりの革に直接触れられる体験。 展示の中盤では、ロエベのものづくりを支える革という素材そのものにフォーカスしたユニークなコーナーも登場します。壁一面に吊り下げられたカラフルな革のピースがずらりと並び、そのどれもが実際に手で触れることが可能です。しっとり滑らかな手触り、手に伝わる温もり、そして鼻をくすぐる革本来の香り––デジタルでは決して味わえないリアルな質感体験に思わず感動しました。ロエベが厳選する上質なレザーの特徴を肌で感じることで、素材への理解も深まります。

このエリアには革素材だけでなく、ロエベの職人が実際に使用する道具が収められたツールボックスや、過去の製品に用いられた糸や染料なども展示されていました。来場者は展示品を見るだけでなく、自分の手で触れたり体験に参加できるため、まるでクラフトのワークショップに参加しているかのような没入感があります。実際、好きなステッカーを選んで壁に貼れる参加型アート(フォトスポットにもなる!)の仕掛けでは、子供から大人まで笑顔で楽しんでいる様子が印象的でした。ロエベの素材と遊び心に直接触れることで、クラフトの奥深さと楽しさを五感で堪能できるのです。

ジョナサン・アンダーソンのクリエイション集大成

歴代コレクション54ルックが並ぶ圧巻の空間。 ロエベの現代的な革新を象徴するエリアでは、クリエイティブ・ディレクターを務めたジョナサン・アンダーソンの手掛けた**貴重なコレクションピースが一堂に会しています。2015年春夏にジョナサンが初めて発表したルックから2023年まで、メンズ・ウィメンズ合わせて54体ものルックが白い空間にずらりと並ぶ様子は圧巻です。彫刻的なシルエットが目を引くドレス、遊び心あふれるだまし絵(トロンプルイユ)的デザインの装い、繊細な刺繍を施したまるでアートピースのようなルックなど、多彩なクリエイティビティの結晶が間近で鑑賞できます。

展示されている具体的な作品もファッションファン垂涎のものばかりです。例えば、砕いた鏡の破片を無数にあしらった2016年春夏コレクションのドレス、タブレット端末のスクリーンで上半身を覆い尽くした2023年春夏メンズのコート、柔らかな花柄ドレスにクリノリンで立体感を与えた2025年春夏コレクションのドレスなど、その前衛的なデザインに息を呑みました。さらに、ロエベのアイコンバッグ「パズル」や人気ライン「パウラズ イビザ」のユニークなサングラスなど、ジョナサン体制下で生まれた名品も展示されており、彼が在任中に追求したクラフトとモダンデザインの融合を改めて感じ取ることができます。ちょうどジョナサン・アンダーソンは2025年3月にロエベ退任を発表したばかりとあり、この空間は彼の功績を称える集大成的な展示とも言えるでしょう。普段はランウェイ写真でしか見られない貴重な衣装の数々を間近に観察でき、ディテールや質感まで堪能できるこの贅沢な体験に、ファッション好きなら時間を忘れて見入ってしまうはずです。

まとめ

ロエベ「クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」を体験し、私は改めてクラフト(工芸)の持つ力に心を打たれました。1846年に小さな革工房として始まり、現代のファッションシーンをリードするブランドへと進化したロエベの軌跡が、伝統と革新の両面から鮮やかに描き出されていたからです。ジブリの幻想世界と最先端のモードが出会うコラボ展示では、ファッションが単なる衣服ではなく文化や物語と結び付くことを感じましたし、職人技の実演や素材に触れる体験を通じて、一つ一つの製品に注がれた情熱と時間を肌で感じることができました。

会場を出る頃には、ロエベというブランドが単に高級なプロダクトを生み出すだけでなく、クラフト=ものづくりの精神を未来に紡いでいることに深い感動を覚えました。展示の最後には最新コレクションや限定アイテムが並ぶショップエリアもあり、その余韻に浸りながら香水やバッグを手に取る人々の姿も見られました。私自身、「次に手に入れるなら絶対ロエベのアイテムにしよう」と心に決めて会場を後にしたほどです。ファッションとアートが融合したこの展覧会は、単なるブランドPRの域を超えて、クラフトの価値と魅力を体現する感動の体験でした。ものづくりへの敬意と新たなインスピレーションを胸に、原宿の会場を後にした今も、その余韻は色褪せることなく心に響いています。

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。