【大阪・関西万博2025|初日体験記・前編】
― アートと建築に導かれて ― シグネチャーパビリオンで見つけた「いのち」の共鳴




はじめに:突然の衝動、それは“はじまりの日”への直感
「行こう」と決めたのは、たった一週間前。
大阪・関西万博の開幕日。偶然とは思えないタイミングで、初日の9時開場チケットを手に入れることができました。
当日、夢洲駅に着いたのは朝の8時40分。空は曇りがちでしたが、気温はそれほど低くなく、むしろ“これから始まる祭典”を迎えるのにちょうどいい空気でした。
9時10分にはスムーズに入場。お目当てはアートと建築、そして三日前に事前予約で奇跡的に当選した「Better Co-Being」。
この時点ではまだ知りませんでした。昼を過ぎる頃から天候が急変し、万博初日が“暴風雨の洗礼”を受けることになるとは。


静けさと共鳴の中にあった、「未来の輪郭」
■ Better Co-Being(宮田裕章 × 塩田千春)
ひとつ目の出会いは、心の奥深くに響くものでした。
屋根も壁もない“森”のような場所にぽつんと浮かぶ、球体のLED装置。
15人の来場者が囲むように立ち、それぞれが端末を通して「未来のイメージ」をこの球体に送信します。
すると光と音が共鳴し、誰かの想いや感情が、まるで空気の粒子となって可視化されていくのです。
この空間に、私が特別な想いを抱いた理由はただひとつ。
ここに関わっているのが、塩田千春さんだったからです。
これまで、幾度となく彼女の作品に出会ってきました。
糸や靴、ドア、記憶の残像のようなものを繊細にすくい上げるその表現に、何度も心を奪われてきました。
その塩田さんが、今回は“共に生きる”をテーマに掲げる宮田裕章さんと手を取り合い、「他者と響き合う空間」を生み出した。
その結果生まれたのは、これまでにない“つながりの感覚”。
個を見つめる塩田作品が、誰かとの共鳴を通じて、未来の風景を描き出す。
あの瞬間、光に浮かぶ球体の揺らめきの中に、自分自身の感情と、まだ見ぬ誰かの希望が静かに共存していたような気がしました。










■ null²(落合陽一)
次に訪れたのは、落合陽一さんによる「null²」。
この空間に一歩入ると、言葉は必要なくなります。
そこは静けさの中に知性が漂う場所。
未来技術と詩的感性が、争うことなく並び立っている。
音や光、そして時折訪れる“無音”の瞬間が、私たちの知覚の輪郭を溶かし、自分自身の在り方を問いかけてくるような展示でした。
昨年観た「ヌル庵:騒即是寂∽寂即是騒」の余韻を思い出しながらも、今回の展示はより静かで深く、観る者の“呼吸”そのものを作品の一部に取り込んでいるように感じました。
「未来を語ることは、静けさの中に耳を澄ますこと」。
そんなメッセージが、そっと差し出されたような印象です。






■ いのちのあかし(河瀬直美)
“いのち”という言葉の重さや儚さに、真正面から向き合う空間。
映像作家・河瀬直美さんが手がけたこのパビリオンでは、巨大なスクリーンに映し出される命の風景が、無言のまま心を揺らします。
人と自然、命の誕生と死、そこにあるのは強い主張ではなく、静かな肯定。
「ああ、自分もこの循環のなかに生きているんだ」と、ふと気づかされるような時間でした。





■ 静けさの森と、ささやかなアートとの出会い
パビリオンが点在する“静けさの森”と呼ばれるエリアには、レアンドロ・エルリッヒをはじめとする現代アート作品が、まるで植物のように静かに息づいていました。
それらの作品は、大きな声で語りかけてはきません。
ただそこに“いる”ことで、見る者に何かを委ねるように佇んでいます。
風に揺れる葉音と一緒に、作品そのものが語りかけてくるような感覚が心地よく、足を止めるたびに、思考が広がっていきました。
会場全体にもパブリックアートが数多く設置されており、“体験の余白”を豊かにしてくれていたのも印象的です。
アートに囲まれるだけでなく、アートの中を歩いているような感覚でした。














まとめ:厳しさの中にあった、静かな確信
昼を過ぎると天候は急変し、暴風雨と冷え込みで体感的にはかなり厳しい状況に。
でもそのすべてを超えて、「ここに来てよかった」と思える体験が確かにありました。
アートや建築を通して、“未来”をただ眺めるのではなく、自分の感情や感覚を重ねて体験する。
シグネチャーパビリオンは、そんな“参加する未来”を体現する場でした。
自分の中にある記憶や想い、誰かとのつながり、そしてこれからの世界――
それらが静かに共鳴するような時間に包まれた、万博初日。
忘れがたい一日として、心に刻まれました。









後編では、フランス館を中心とした海外パビリオンの魅力をご紹介します。
アートとファッション、国ごとの美意識が光る世界の空間体験、どうぞお楽しみに。


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