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はじめに

2025年8月16日、直島二日目。私は、長年惹かれ続けてきた杉本博司の作品世界を辿る一日を過ごしました。家プロジェクトの要である護王神社《Appropriate Proportion》、そして《杉本博司ギャラリー 時の回廊》。「江之浦測候所」や「本歌取り 東下り」など各地で作品を見てきた体験が、直島という場所で一本の線に結び直されていく そんな感覚を味わいました。

会場全体の印象

本村エリアの生活風景の中に、神社と現代アートが静かに呼応しています。観光地らしいにぎわいよりも、むしろ土地の空気に作品が「据わって」いる印象。とりわけ杉本作品は、時間や記憶、信仰といった目に見えないものを、光と素材によってそっと可視化していました。

各作品紹介と体験

《Appropriate Proportion》(杉本博司+荒木信雄)

2002年公開。杉本博司の構想を宮大工・荒木信雄が具現化した護王神社のプロジェクト。江戸期の社殿を修復しつつ、地上の本殿と地下の参道を透明なガラスの階段で貫いて結びます。地上/地下、現世/神域、可視/不可視――二項の境界を跨ぐその造形は、直島の地に「時間の垂直軸」を通すようでした。
感想:地下から天へ伸びる光の梯子を見上げた瞬間、江之浦測候所で体験した「光と建築の交錯」がよみがえりました。護王神社から江之浦へ思想が連なっていく実感に、胸が熱くなりました。

《杉本博司ギャラリー 時の回廊》

2022年に開設された常設ギャラリー。写真・彫刻・建築的思考を横断しながら、「時間」を主題に据えた杉本の仕事を作品単位で体感できる場です。空間は静謐で、作品と呼吸を合わせるほどに、瀬戸内の自然光や季節の移ろいが展示そのものに作用してきます。

展示作品

  • 「華厳の滝」1977年
  • 「松林図」2001年
  • 「聖ベネディクト礼拝堂」2000年
  • 「ワールド・トレード・センター」1997年
  • 「ノートルダム・デュ・オー礼拝堂」1998年
  • 「光の教会」1997年
  • 「光学硝子五輪塔 ボーデン湖、ウットヴィル」2009/1993年
  • 「護王神社模型」2003年
  • 「日本海、隠岐」1987年
  • 「観念の形 003 オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面」2005年
  • 「Past Presence 070、大きな女性像 III、アルベルト・ジャコメッティ」2016年
  • 「カボット・ストリート・シネマ、マサチューセッツ」1978年
  • 「カリブ海、ジャマイカ」1980年
  • 「ハイエナ、ジャッカル、コンドル」1976年
  • 「Opticks 020」2018年
  • 「Opticks 073」2018年
  • 「Opticks 080」2018年
  • 「プリズム」2002年
  • 「三種の神樹-神代杉」2022年
  • 「三種の神樹-屋久杉」2022年
  • 「三種の神樹-栃の樹」2022年
  • 「On the Beach 001」1990/2014年
  • 「On the Beach 007」1990/2014年
  • 「On the Beach 017」1990/2014年
  • 「On the Beach 018」1990/2014年
  • 「硝子の茶室『聞鳥庵』」2014年
  • 「光学硝子五輪塔 日本海、礼文島」2012/1996年
  • 「光学硝子五輪塔 相模湾、熱海」2012/1997年
  • 「光学硝子五輪塔 オホーツク海、北海道」2012/1989年
  • 「アイリッシュ海、マン島」1990年

作品を見渡して感じたこと

  • 時間の層:長秒露光で一本の映画を焼き付けた「劇場」、水平線だけで世界を構成する「海景」、焦点操作で記憶の像をすくい上げる「建築」。撮ること=時間を扱うこと、という原理が一貫して見えます。
  • 物質と光:「観念の形」や「光学硝子五輪塔」、さらには「Opticks」「プリズム」では、抽象度の異なる“光”が、数学的/物質的/スペクトル的に立ち上がる。展示室の静けさに耳を澄ませるほど、作品自体がほのかに発光しているように感じました。
  • 土地との結びつき:「護王神社模型」が展示の中に置かれていることが示す通り、直島における杉本の仕事は場との応答で成立しています。窓外の瀬戸内海に目を向け、再び「海景」に視線を戻すたび、実景と像の水平線が私の中で重なりました。
  • 屋外の茶室:「硝子の茶室『聞鳥庵』」は屋外に設置。光と風をそのまま取り込み、呈茶の所作すら“時間を味わう行為”へ昇華していました。

感想:展示を一巡して振り返ると、護王神社から時の回廊、さらに江之浦測候所へ至る思想の連続が、ごく具体的な作品配置として腑に落ちました。特に「海景」の前で、瀬戸内の水平線と写真の水平線が重なった刹那、私の時間感覚が静かに深まっていくのをはっきりと感じました。

巡って感じたこと

直島という場所は、杉本博司にとって「時間を形にする」ための大切な舞台なのだと思います。古い信仰の場に現代アートが介入し、過去と未来が一本の線で結ばれる。その連なりの中に、自分自身の記憶や体験も編み込まれていく――そんな実感が残りました。

まとめ

護王神社《Appropriate Proportion》で垂直軸の時間を体感し、《時の回廊》で水平軸の時間をたどる。二つを往復することで、直島そのものが“時の回廊”として立ち上がってきました。
次回は《ANDO MUSEUM》と《直島新美術館》へ。直島における建築とアートの新たな試みを、体験とともに記します。

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