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2025年11月中旬、平日の午後。
国立新美術館で開催されていた「ブルガリ カレイドス展」を訪れました。
週末ほどの混雑もなく、展示室の空気がゆっくりと流れ、作品のひとつひとつとちゃんと向き合える贅沢な鑑賞時間でした。

結論から言うと、これは単なるハイジュエリー展ではありませんでした。
ブルガリというブランドの“美の哲学”と“文化の根”が、時代をまたいで眼前に立ち上がる
そんな、体験としての濃度が非常に高い展示でした。


■ 豪華で華やかなだけじゃない。“ブルガリと分かる”圧倒的な存在感

展示室に入った瞬間、まず迫ってくるのは眩いほどの宝石の海。
エメラルド、ルビー、サファイア どれも極上の石ばかりで、色彩の迫力は圧巻そのもの。

しかし、見進めるほどに気づきます。

「ブルガリの宝石は、“豪華”の先にしっかりとした個性がある」ということ。

その個性は、いくつかの要素として明確に浮かび上がってきます。

  • 大胆な色×色の組み合わせ
    イタリア陽光のように明快で、地中海の色彩を思わせる華やかさ。
  • 彫刻のような曲線やボリューム
    ジュエリーというより“小さな建築”のような存在感。
  • 石が主役になるセッティング
    金具が主張せず、ストーンの美しさを最大限に生かす設計。
  • 身体に乗ったときに完成する美
    “着けられて初めて成立する造形”に強く意識が向いている。

ショーケース越しに見るだけでも、
「これはブルガリだ」と直感的に分かる。
そのデザインの軸の太さは圧倒的でした。


■ 古代ギリシャ/ローマ神話のモチーフが息づくシンボル ― セルペンティ

今回の展示で特に惹きつけられたのが、ブルガリの代表的シリーズ「セルペンティ」。
“蛇”をモチーフにしたブレスレットやウォッチ、ネックレスは、
宝飾という枠を超えて「文化的アイコン」としての強度を持っています。

蛇は、古代文化において多様な意味を持つ象徴です。

  • 再生と永遠
    脱皮を繰り返すため生命の循環の象徴。
  • 知性・守護の象徴
    女神アテナに寄り添う蛇は“知恵の化身”として描かれた。
  • 美と危険の両義性
    人々を惹きつける神秘的な存在。

ブルガリは、このモチーフを「ジュエリーの文法」で見事に翻訳しています。

セルペンティの頭部は、直線ではなく、少し丸みのあるフォルムで構成され、
鱗に見立てたモザイクのようなストーン配置は、ローマ帝国の道や建築を飾ったモザイク芸術の系譜を思わせます。

そして何より驚かされるのは“しなり”。
蛇の身体のように柔らかく腕に巻きつく機構は、内部に細やかなバネ状構造を持ち、
工芸と工学が融合した結果として成立しています。

「神話」「文化」「技術」「ファッション」。
これほど多くの領域が一つのジュエリーの中で共存していることに、思わずため息が出るほどでした。


■ ブルガリの色彩美 ― “光の国”イタリアが生み出した宝飾の色

ブルガリを語るうえで欠かせないのが“色”です。
今回の展示では、その色彩美の源泉がよく分かりました。

ブルガリの色には、明確な文化的バックグラウンドがあります。

  • 地中海の強い陽光
    明暗がくっきりとし、色彩が鮮烈に見える。
  • ローマの建築と古代モザイク
    石と石を組み合わせる文化が色配置に影響している。
  • イタリアのオペラ文化
    大胆で華やかなコスチュームの伝統。

赤・青・緑・紫……
本来ならぶつかり合いそうな色を、
絶妙のバランスで“調和”させてしまうのがブルガリの真髄。

近くで見ると個性が強い色なのに、距離を取るとひとつの芸術としてまとまっている。
その“色の統率力”が、ブルガリをブルガリたらしめると改めて実感しました。


■ 職人技 ― 宝石の裏側に宿るイタリア黄金の手仕事

表からの華やかさだけでなく、裏側にある職人技にも目が吸い寄せられました。

ジュエリーを横から覗くと、細かな金細工の美しさがよく見えます。
石の裏側に丁寧に空けられた光孔、微妙な角度で石を支える爪、
そしてセルペンティの滑らかなしなり構造。

ブルガリのジュエリーは、表も裏も手抜きがない。
むしろ裏側にこそ「本気の仕事」が宿っています。

このあたりは、日本の伝統工芸の考え方にも通じるものがあり、
宝飾を超えて“手仕事文化”として心に刺さりました。


■ 映画とスターの歴史 ― ブルガリを纏うことは文化を纏うこと

展示の一角には、映画女優たちが身につけたアーカイブもあり、
ブルガリが“芸術と映画の歴史そのもの”と密接であることが改めて分かります。

  • エリザベス・テイラー
  • ソフィア・ローレン
  • アニタ・エクバーグ
  • 現代のレッドカーペットを彩る俳優陣

映画の黄金期、イタリアの“ドルチェ・ヴィータ”の香りを纏ったジュエリーたち。
スクリーンで見るスターと、ショーケースの中で静かに佇むジュエリーが、
時代を超えてリンクする瞬間は、思わず胸が熱くなるものでした。

“美しいもの”は、時代をまたいで受け継がれていく。
その象徴としてブルガリがあり続けてきたのだと感じます。


■ 展示空間 ― 光・黒・ガラスが構築した“宝飾の劇場”

今回の展示空間は、まるで劇場のようでした。
黒を基調とした壁と床、そして一点に向かって伸びるスポットライト。
宝石は光の角度で大きく表情が変わるため、照明設計は実質“作品の一部”です。

平日の来場だったおかげで、作品同士の距離感、光の落ち具合、展示ケースの反射まで、
ゆっくり観察できたのは本当に幸運でした。

特に印象に残った瞬間があります。

セルペンティのヘッドに光が差し込んだとき、
石の内部がまるで呼吸しているように色を変え、
まさに“生きているジュエリー”のように見えたこと。

あの瞬間を見られただけでも来て良かった、と強く思いました。


■ 鑑賞のコツ ― 角度と距離で変わるブルガリの表情

今回ゆったり見られたからこそ気づいた“鑑賞のコツ”があります。

  • 真上だけでなく、斜め横から見る
    石の奥行きや金細工の美しさがよく見える。
  • ケースに映る反射を見る
    ブルガリの色彩は“光の跳ね返り”でも輝く。
  • セルペンティは“身体の動きを想像して”見る
    実際に巻くとどのように美しく見えるのか、想像するだけで楽しめる。

宝飾展は“光を読む展示”。
そのことを改めて実感しました。

■ インスタレーションで体感する「色・光・動きのブルガリ」

今回の展覧会では、ハイジュエリーだけでなく、
“ブルガリの色彩と感性を身体で体験する” インスタレーション作品が複数展示されていました。
鑑賞者の視覚・聴覚・身体感覚に働きかける空間演出は、宝飾の世界観を拡張し、展覧会をより“体験型”へと進化させています。

まず圧巻だったのが、ララ・ファヴァレット《レベル5》。
巨大な洗車機のブラシを思わせるカラフルな回転オブジェが、産業用素材とは思えないほど鮮烈な存在感を放っています。
14色のブラシが円を描くように動き、色の軌跡が空間にリズムを刻むその様子は、
“色そのものが生き物のように躍動する”視覚彫刻とも言えるもので、観る者を強く引き込みます。
工業製品をアートへと転換するその手法は、ブルガリの「素材の美を引き出す」という哲学とも不思議な共鳴を見せていました。

続いて印象的だったのは、中山晃子による映像インスタレーション。
水、泡、鉱物顔料、光の反射――こうした流動的な素材をカメラで捉え、
3台のカメラ映像をリアルタイムで編集・投影し、空間全体に広げていく作品です。
映像は固定されたフレームではなく、丸い縁を持つ“万華鏡の窓”のような形で投影され、
光が溶け合い、泡が浮遊し、色が脈動する様子がまるで宝石内部の光の流れを拡大したかのよう。

さらに、特定のスポットに立つと映像が変化したり、色の動きが自分の影と溶け込むように連動したり、
“鑑賞者の存在によって作品が完成する”インタラクティブ性も備わっていました。
これは、ジュエリーが“身につけて初めて完成する美”を持つことと重なり、
ブルガリの表現が現代アートとしても十分に成立することを体感できます。

また、展示空間の中央付近には、巨大なクリスタルのような質量感を持つ彫刻的オブジェも配置され、
光の反射と映像の揺らぎを受け止めながら、空間の軸として静かに存在する姿が印象的でした。
宝石の内部構造を拡大したかのようなこのオブジェも、光と影を反射し続け、
“ブルガリの世界をひとつの宇宙として体感する”役割を果たしていました。

総じて、これらのインスタレーション作品は、
宝飾の“静的な美”とは対照的に、“動き・時間・光の変化”をテーマにしており、
ブルガリの色彩感覚と、ブランドの根底にある「美の探求」を、
身体的なスケールで感じ取れる特別な体験でした。


■ まとめ ― 文化・美・技術のすべてが交差する“ブルガリという宇宙”

ブルガリ カレイドス展は、宝石の豪華さを楽しむだけでは終わらない展示でした。

  • 古代ギリシャ・ローマの神話
  • 色彩と建築が織りなすイタリアの美意識
  • 職人技がつくり出す精密な構造
  • スターたちが愛した歴史
  • 現代的なアート性
  • 展示空間そのものが作る体験

こうした複数の視点が折り重なって、
“ブルガリという宇宙”が目の前で立ち上がる――
そんな貴重な時間でした。

鑑賞後もしばらく余韻が残る、特別な展示。
宝飾やファッションに興味がある人はもちろん、
文化・歴史・アートを深く楽しみたい人にも強くおすすめできる内容です。


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