KYOTOGRAPHIE 2025 開幕初日レポート|4つの展示が映し出す「人間性」の多様なかたち
2025年4月12日、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の開幕初日に足を運びました。
会期スタートの日ということもあり、少し緊張感のある空気かと思いきや、混雑はほとんどなく、各会場をゆったりと巡ることができました。桜のシーズンも重なる京都の春に、写真と向き合う贅沢な時間でした。
今年のテーマは「HUMANITY(人間性)」。今回紹介するのは、甲斐啓二郎・Pushpamala N・石川真生・劉星佑の4名です。祭りの熱気、インドの美学、沖縄の魂、そして家族の物語。4つの展示はそれぞれまったく異なる切り口で、「人間とは何か」を問いかけてきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025 |
| テーマ | HUMANITY(人間性) |
| 開催期間 | 2025年4月12日(土)〜5月11日(日) |
| 会場 | 京都市内各所 |
| 公式サイト | kyotographie.jp |


KYOTOGRAPHIE 2025とは? テーマ「HUMANITY」が問いかけるもの
KYOTOGRAPHIEは、京都を舞台に毎年春に開催される国際写真祭です。2025年は第13回目を迎え、世界10カ国から13組のアーティストが参加しています。
今年のテーマは「HUMANITY(人間性)」。個人の自由と自律を尊ぶ西洋的な人間観と、自然や他者との関係性・調和を重んじる日本的な人間観。そのふたつの視点を交差させながら、人間の営みの複雑さに迫るプログラムになっています。
写真という媒体は、人間が人間を見つめるための最もシンプルで、最も直接的な方法のひとつかもしれません。今年の展示はどれも、そのことを改めて実感させてくれるものでした。

甲斐啓二郎「骨の髄」|薄暗い会場に広がる、祭りのむきだした人間
- 会場:くろちく万蔵ビル
会場のくろちく万蔵ビルに入ると、まず空間の重さに引き込まれます。薄暗く重厚な雰囲気の中に、世界各地の祭りを捉えた写真が並んでいました。





甲斐啓二郎は1974年生まれ、福岡出身のスポーツ写真家です。2012年にイングランドで出会ったシュローブタイド・フットボールという古い祭りをきっかけに、「祭りには人間の根源的な部分が隠されているのではないか」という問いを抱き、以来世界各地の格闘的な奇祭を撮り続けてきました。
本展では5つのシリーズが展示されていました。
- 〈Shrove Tuesday〉:イングランドのシュローブタイド・フットボール
- 〈Opens and Stands Up〉:ジョージアの復活祭「Lelo」
- 〈綺羅の晴れ着〉:岩手・三重・岡山・群馬のはだか祭
- 〈手負いの熊〉:長野・野沢温泉の道祖神祭り
- 〈一条の鉄〉:愛知・鳥羽の火祭り
さらに1階では、4シリーズを映像にまとめた約9分の作品が3面の巨大スクリーンで初公開されていました。この映像が、とにかく迫力がありました。薄暗い空間の中で3方向から押し寄せてくる映像は、静止画よりもさらにダイレクトに、祭りの熱気と群衆のうねりを体に伝えてきます。
甲斐はただ撮る側にとどまらず、時には褌を締めて祭りに参加し、フィルムで撮影します。「フィルム交換という現実に引き戻される瞬間にだけ、参加者から傍観者になれる」という言葉が印象的でした。半ばトランス状態にある群衆の只中に自ら飛び込むからこそ、あれだけの臨場感が写真に宿るのでしょう。
日本の祭りをテーマにした作品も多く、見慣れたはずの光景が、まったく別の温度と密度で迫ってくる感覚がありました。「体のなかがぞわぞわと震えるような体験をしてほしい」と甲斐は語っています。まさに、そのとおりでした。








Pushpamala N「Dressing Up」|明治の洋館に響くインドの美学
- 会場:京都文化博物館 別館
京都文化博物館 別館は、明治時代に建てられたレンガ造りの洋館です。その歴史的な建物の佇まいと、Pushpamala Nの展示がとても自然に溶け合っていました。植民地主義や国家のアイデンティティを問うテーマが、異なる文化と歴史が交差してきた建物の空気の中に置かれることで、さらに奥行きを持って伝わってきた気がします。


Pushpamala N(プシュパマラ・N)は1956年生まれ、インドのバンガロール(現ベンガルール)を拠点に活動するアーティストです。彫刻家としてキャリアをスタートし、1990年代半ばから「フォト・パフォーマンス」と呼ばれる独自のスタイルを確立してきました。
「現代インド美術界で最もエンターテイニングなイコノクラスト」とも評される彼女の手法は、歴史的な絵画や図像の中に自らが「演じて」入り込むというもの。今回の展示では、1898年の絵画をもとにヴァスコ・ダ・ガマとカリカット王の両者を自ら体現した〈The Arrival of Vasco da Gama〉や、インドという国家の変容を探り続ける〈Mother India〉シリーズが並んでいました。
作品に使われた小道具や背景もそのまま展示されていて、写真が生まれた「現場」ごと見せるような演出になっています。デジタルで整えたような完璧さとは真逆の、アナログで演劇的な質感。それがかえって、作品の背後にある概念の重さを際立たせていました。
インド感が全開でした。会場に入った瞬間から、まるで別の場所に連れていかれるような感覚があります。












石川真生「アカバナ」|和の空間で対峙する、沖縄の女たちの力
- 会場:誉田屋源兵衛 竹院の間
誉田屋源兵衛は、240年以上の歴史を持つ京都の帯の老舗。その「竹院の間」という和の空間に、石川真生の写真が並んでいました。静謐で落ち着いた日本的な空間と、石川の写真が持つ剥き出しのエネルギーとのコントラストが、強烈に印象に残りました。


石川真生は1953年、沖縄県大宜味村生まれ。米軍統治下の沖縄で生まれ、その人生をかけて沖縄を撮り続けてきた写真家です。令和5年度の芸術選奨文部科学大臣賞、第43回土門拳賞など、近年立て続けに受賞を重ね、今まさに世界から注目を集めています。
展示タイトルの「アカバナ」は、沖縄の原種系ハイビスカスのこと。石川が大好きだというこの花のように、「たくましくも美しい」沖縄の女たちを撮った最初期の作品が本展の核心です。
1975年、石川は米軍基地の兵士たちを撮るために、コザの黒人兵士専用のバーで働き始めます。そこで出会った女たちを撮り続けた記録が〈赤花 アカバナ──沖縄の女〉シリーズです。石川はこう語っています。「私は自分が当事者じゃない写真は撮れない。」
「沖縄は石を投げれば知り合いや親戚に当たるクソ狭い島さ。そこで潔いほど自由に生きてる彼女たちはカッコよかった」という言葉が、写真の前に立つとそのままリアルに伝わってきます。
力強い。これに尽きます。不当な差別を受け続けてきた黒人兵士たちと、同じように差別と隣り合わせで生きてきた沖縄の女たち。その生身の人間としての強さが、写真からまっすぐに飛び込んできました。
今回はこの初期シリーズに加え、与那国島・石垣島での撮影を含む最新作〈大琉球写真絵巻〉の新作も展示されており、石川真生の「今」も感じられる構成になっていました。










劉星佑「父と母と私」|展示の前に立つ、作品のなかの両親
- 会場:ギャラリー素形
劉星佑(リュウ・セイユウ)は1985年、台湾・高雄生まれ。KG+SELECT Award 2024を受賞し、今回KYOTOGRAPHIEのメインプログラムに抜擢された台湾のアーティストです。

代表作は〈My Parents〉シリーズ。2009年に実家で発見した両親の結婚写真をきっかけに制作が始まり、父親にウェディングドレス、母親にスーツを着せ、あらためて「再婚」写真として撮影するという作品です。フィルムカメラが生み出す幻想的なトーンが、ジェンダーの固定観念と社会規範へのまなざしをやわらかく、しかし確かに届けてきます。
さらに〈住所不明〉シリーズでは、台湾における同性婚の合法化を先祖に知らせるというコンセプトのもと、戸籍に記載された先祖の住居や父親が兵役を経験した土地を訪れ、家族の歴史をより広い社会的・歴史的文脈に結びつけています。
開幕初日の4月12日には、劉星佑本人によるアーティストツアーが開催されていました。しかも、このツアーのゲストは劉の「ご両親」。通訳を介してではありましたが、作品の中に登場するご両親が、実際に展示の前に立って話を聞いているという光景は、他の展示では絶対に体験できない特別な瞬間でした。
「作品を見てもらう」ではなく「作品の中の人と一緒に作品を見る」。この展示にしか生まれ得ない時間に立ち会えたことは、2025年のKYOTOGRAPHIEで一番印象に残った体験のひとつです。
















2024年に続き、2025年も。来年もまた、ここへ来たい
2024年に初めてKYOTOGRAPHIEを訪れ、2025年は2年連続で開幕初日に足を運ぶことができました。
会場ごとにまったく異なる空間と文脈の中で写真が展示されているのが、このフェスティバルの大きな魅力のひとつだと思います。美術館の白い壁ではなく、老舗の帯屋の座敷であったり、明治の洋館であったり、薄暗い重厚なビルであったり。写真とその「場所」が対話しながら、どちらもよりよく見えてくる感覚があります。
2026年も、ぜひ参加したいと思っています。
会期は2025年5月11日まで続きます。京都の春に、ぜひ足を運んでみてください。
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