「本殿のない神社」埼玉・金鑚神社へ。苔むす参道と古代の静寂が残る武蔵国二宮
2022年8月20日、まだ蒸し暑さが残る曇りの朝、埼玉県児玉郡神川町にある金鑚神社(かなさなじんじゃ)を訪れました。
金鑚神社は「武蔵国二宮」として古くから知られる、格式高い神社です。そしてこの神社には、ある珍しい特徴があります。それは「本殿がない」こと。
全国の神社で本殿を持たないのは、奈良の大神神社、長野の諏訪大社、そしてこの金鑚神社の3社のみとされています。境内の背後にそびえる御室山(みむろやま)そのものが御神体であり、山を直接仰ぐ形で参拝する、古代の信仰形式を今に伝える聖地です。
金鑚神社とは?本殿を持たない古代信仰の聖地
金鑚神社(かなさなじんじゃ)は、埼玉県児玉郡神川町に鎮座する式内社(名神大社)で、武蔵国二宮に数えられます。祭神は天照皇太神(あまてらすおおみかみ)と素戔嗚尊(すさのおのみこと)の二柱。
創始は古く、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際、火打金(ひうちがね)を御霊代(みたましろ)として御室山の山中に納めたことが始まりとされています。
貞観4年(862)には従五位下の神階を授与され、延長5年(927)に編纂された「延喜式神名帳」にも名神大社として記載されるなど、古来より朝廷や武将から厚い崇敬を受けてきました。源義家が奥州征伐の際に戦勝祈願を行ったという記録も残っており、武蔵七党の児玉党からも篤く崇敬された、この地を代表する神社です。
明治維新後は明治6年に県社、明治18年には官幣中社に昇格。現在も神社本庁の別表神社として、多くの参拝者を迎えています。
「本殿のない神社って、どんな場所なんだろう」という好奇心を胸に、参道へと足を踏み入れました。

2022年8月、曇りの朝に参拝してきた
訪れたのは2022年8月20日の午前中。8月の埼玉はさすがに蒸し暑く、駐車場から境内へ向かうだけで少し汗ばむほどでした。ただ、鳥居をくぐって境内に入ると、木々がうっそうと茂る境内は木陰が多く、ひんやりとした空気が漂っていました。
曇り空だったこともあり、強烈な日差しはなく、落ち着いた雰囲気の中での参拝になりました。木々を揺らす風の音だけが聞こえ、都市の喧噪からは遠く切り離されたような静けさがありました。
参道へ。桟橋を渡るまでの「苔の世界」
境内に足を踏み入れてまず目を引いたのは、参道に広がる苔でした。
地面を覆う苔は、目の覚めるような深い緑色。参道の両脇だけでなく、足元の石段や石垣にまでびっしりと苔がついており、まるで苔の絨毯の上を歩いているようでした。土と苔の混じったにおいが鼻をくすぐり、空気そのものがしっとりと湿っていました。
参道の途中には木製の桟橋がかかっています。その桟橋を渡るまでの区間が、特に苔の密度が濃く、まるで別の時間軸に迷い込んだような感覚がありました。緑一色に染まった参道を歩くこの体験だけでも、来た価値があると感じました。
古代からこの場所を守ってきた木々と苔の生命力。それをじっくりと感じながら、ゆっくりと拝殿へと進みました。

境内の見どころ3選
国の重要文化財「多宝塔」
境内で特に目を引くのが、朱塗りの美しい多宝塔です。
この多宝塔は天文3年(1534)、武蔵七党・丹党の豪族である安保弾正全隆(あぼだんじょうぜんりゅう)が、子孫の繁栄を祈って建立したもの。高さ約14メートル、屋根はこけら葺き(薄板を重ねて葺く伝統工法)で、二重の屋根が空に映えます。
国の重要文化財に指定されており、500年近い時を経た今もその姿を境内にたたずんでいます。苔むした参道を歩いた後にこの朱塗りの塔を見ると、緑と朱のコントラストが美しく、思わず立ち止まってしまいました。
本殿の代わりに御神体・御室山を仰ぐ
拝殿の奥には本殿がありません。代わりに、境内の背後に御室山・御嶽山がそびえており、その山全体が御神体です。
拝殿から山の方向に向かって手を合わせる形で参拝します。本殿という「建物」ではなく、山という「自然」そのものが御神体であるというこの形式は、人間が文字を持つ以前から続く原始的な信仰のあり方です。参拝しながら、この場所に人々が神を感じてきた時間の長さを、静かに思いました。
全国でこの形式をとる神社は、大神神社(奈良)・諏訪大社(長野)・金鑚神社の3社のみとされており、それだけでもこの神社の特別さが伝わります。

国の特別天然記念物「鏡岩」
御嶽山の中腹には「鏡岩(かがみいわ)」があります。岩面の長さ約4メートル、幅約9メートルの岩で、赤鉄石英片岩という地質から成り、長い年月をかけて研磨されたような滑らかな岩肌が特徴です。国の特別天然記念物にも指定されています。
今回の訪問では奥社まで登らなかったため鏡岩は見られませんでしたが、次に機会があればぜひ御嶽山の山道を歩いて鏡岩まで足を延ばしてみたいと思っています。

金鑚神社の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 金鑚神社(かなさなじんじゃ) |
| 所在地 | 埼玉県児玉郡神川町字二ノ宮750 |
| 祭神 | 天照皇太神・素戔嗚尊 |
| 社格 | 式内社(名神大社)、武蔵国二宮、旧官幣中社 |
| 本殿 | なし(御室山が御神体) |
| 文化財 | 多宝塔(国重要文化財)、鏡岩(国特別天然記念物) |
アクセス・駐車場
| 手段 | 詳細 |
|---|---|
| 車 | 関越自動車道 本庄児玉ICから約10.6km・約18分 |
| 電車 | JR八高線「丹荘駅」より徒歩約20分 |
| 駐車場 | 境内周辺に無料駐車場あり |

御朱印
拝殿に向かって右手に社務所があり、御朱印をいただけます。御神体の御室山と金の龍がデザインされた御朱印帳も頒布されており、パワースポット好きの方にはぜひいただいてほしい一品です。御朱印の受付時間については、訪問前に公式サイトでご確認ください。
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金鑚神社を訪れてみて
30分足らずの短い参拝でしたが、苔むす参道を歩いたあの感触は、しばらく忘れられないものになりました。
特別な何かが起きるわけではありません。でも、木々の風の音を聞きながら、土と苔のにおいを感じながら歩いていると、日常とは少し違う時間の流れに入り込んだような気がしました。
「本殿のない神社」という事実を知った上で参拝すると、拝殿の奥の山に向かって手を合わせる瞬間に、何か特別な感覚があります。古代の人々が山や自然に神を見出した、その感覚の片鱗に触れられるような場所でした。
埼玉のパワースポットを探している方、神社の「本来の形」に興味がある方、静かな場所でゆっくりと時間を過ごしたい方に、ぜひ訪れてほしい神社です。

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