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2025年4月12日、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の開幕初日に足を運びました。

前年に続いて2年連続です。それでも「今年もここにいる」という感覚は、去年とはまったく違いました。今年のテーマは「HUMANITY(人間性)」。世界10カ国から13組のアーティストが参加し、それぞれが「人間とは何か」を問いかけてきます。

この記事では、2025年に訪れた全6ルート・計13組のアーティストの展示を一覧でまとめています。各展示の詳細レポートへのリンクも掲載しているので、気になるものがあればそちらもぜひ。

項目内容
イベント名KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025
テーマHUMANITY(人間性)
開催期間2025年4月12日(土)〜5月11日(日)
会場京都市内各所
公式サイトkyotographie.jp

KYOTOGRAPHIE 2025とは

KYOTOGRAPHIEは2013年に始まった、京都を舞台とする国際写真祭です。2025年は第13回目の開催。白い壁の美術館ではなく、寺院、老舗帯屋の蔵、明治の洋館、印刷工場の跡地といった京都固有の場所が会場になります。写真と場所が互いに語り合いながら、ほかでは体験できない鑑賞体験が生まれるのがこの祭りの核心です。

今年のテーマ「HUMANITY」は、個人の自由と自律を尊ぶ西洋的な人間観と、自然や他者との関係性・調和を重んじる日本的な人間観、そのふたつが交差する地点を探るプログラムになっています。

JR「クロニクル京都 2024」|京都新聞ビル

開幕初日の朝、最初に向かったのは京都新聞ビルの地下1階、旧印刷工場跡です。

フランス出身のアーティストJR。正体不明のまま活動を始め、世界中の都市で「人の顔」を巨大印刷したゲリラアートで知られる存在です。「クロニクル京都 2024」では、505名の京都市民が撮り下ろされ、大判プリントが鉄骨足場に並んでいました。

地下空間に降りると、空気がまだ「展示として息をし始めたばかり」のように感じられました。巨大なポートレートたちが、まるで目を覚ましたばかりのように、ゆっくりと語りかけてくるようでした。1階ロビーでは、新聞用紙に刷られた市民の顔が壁一面に広がり、展示空間全体が都市の記録媒体そのものになっていました。

開幕初日だからこそ感じられた「始まったばかりの空気」が、この展示を忘れがたいものにしています。

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アダム・ルハナ・土田ヒロミ|八竹庵(旧川崎家住宅)

大正15年建築の名建築、八竹庵。サロン、茶室、洋館、蔵が一つの敷地内に共存する和洋折衷の空間で、対照的なふたつの展示が並んでいました。

パレスチナ系アメリカ人写真家アダム・ルハナ「The Logic of Truth」では、スイカが重要な役割を果たします。赤・緑・白・黒はパレスチナ国旗と同じ配色。国旗を掲げることすら禁じられた人々が、スイカをテーブルに置く、子どもが持つ、日常の中にそっと置くことで「静かな抵抗」を表現しています。「真実とは誰がどのように構成するのか」という問いが、畳の座敷の静かな空気の中でじわじわと広がっていきました。

土田ヒロミ「リトル・ボーイ」は蔵の中で展開。1975年から広島を繰り返し訪れ、「被爆地のその後」を撮り続けてきた記録です。暗闇の中でB29の爆音が響き、一枚一枚の写真が「今この瞬間にもつながる歴史」として迫ってきました。

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マーティン・パー・吉田多麻希|TIME’S(安藤忠雄設計)

高瀬川沿いに建つ安藤忠雄設計のコンクリート建築、TIME’S。開幕初日の4月中旬、外には満開の桜、内には静謐なふたつの写真世界が広がっていました。

英国の写真家マーティン・パー「Small World」は、観光地で写真を撮り合う人々、桜の下で自撮りする旅行者、土産を囲む群衆を極彩色で切り取ります。最初は笑えるのに、気づけば自分が「観光客というロールプレイ」を無意識に演じていることを静かに暴かれている。そんな感覚がありました。

吉田多麻希「土を継ぐ – Echoes from the Soil」は対照的に静謐です。Ruinart Japan Awardを受賞した彼女が、人間と自然の関係を詩的なドキュメントと音・映像のインスタレーションで表現。コンクリートの無機質な壁に映る作品が、自然の声を静かに返してきます。

ミニマルな建築空間が、ふたつのまったく異なる視点を際立たせていました。

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エリック・ポワトヴァン・イーモン・ドイル|両足院・東本願寺

建仁寺の塔頭・両足院では、フランスの写真家エリック・ポワトヴァンの「両忘 ― The Space Between」を鑑賞しました。苔むす庭と畳の座敷に、植物、動物、自然物を被写体にした写真が襖絵のように並びます。展示タイトルの「両忘」とは禅の思想で「対立するものを超越し、分け隔てなく見る境地」。自然と人工の境界線を問いかける作品群が、両足院の静かな空気と深く響き合っていました。

幸運にも、会場でポワトヴァン本人に出会うことができました。「自然も庭園も、手が加わった人工物であり、写真も同じ。だから私は”嘘の自然”を撮るのだ」という言葉が、この展示の核心を一言で言い表していました。

東本願寺では、アイルランドのイーモン・ドイル「K」が広大な空間を満たしていました。1999年に兄を、2017年に母を亡くしたドイルが、母の書き残した数百通の手紙をインスタレーション化し、薄い絹のポートレートとともに展示。サウンドスケープとともに場内に響くその世界は、展示を「見る」というより「その中にいる」という体験でした。

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甲斐啓二郎・Pushpamala N・石川真生・劉星佑|各会場

この日、4つの異なる会場で4人のアーティストの展示を巡りました。

甲斐啓二郎「骨の髄」(くろちく万蔵ビル)は、世界各地の格闘的な奇祭を捉えた写真と、3面スクリーンに映し出される約9分の映像が圧巻でした。甲斐自身が褌を締めて祭りに参加しながら撮影するというスタイルの写真は、体のなかをぞわぞわと震わせてくる迫力があります。

Pushpamala N「Dressing Up」(京都文化博物館別館)は、インドのアーティストが歴史的な絵画や図像の中に自らが「演じて」入り込む「フォト・パフォーマンス」。明治のレンガ造り洋館という空間と、インドの美学・植民地主義を問うテーマが自然に溶け合っていました。

石川真生「アカバナ」(誉田屋源兵衛 竹院の間)では、1975年に米軍基地近くのコザのバーで働きながら撮り始めた沖縄の女たちの写真が、240年の歴史を持つ帯屋の座敷に並んでいました。静謐な和空間と、写真が放つ剥き出しのエネルギーのコントラストが強烈でした。

劉星佑「父と母と私」(ギャラリー素形)では、父親にウェディングドレス・母親にスーツを着せて再び「結婚写真」を撮るという代表作が展示。しかも開幕初日のアーティストツアーのゲストはなんと劉の「ご両親」でした。作品の中に登場するご両親が実際に展示の前に立って話を聞くという、他の展示では絶対に体験できない特別な瞬間に立ち会うことができました。

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グラシエラ・イトゥルビデ・レティシア・キイ・Lee Shulman & Omar Victor Diop|各会場

開幕初日の後半、さらに3つの展示を巡りました。

グラシエラ・イトゥルビデ(京都市美術館別館)は、メキシコシティ生まれの写真家による日本初回顧展。60年以上にわたって撮り続けてきたモノクロ写真が並ぶ空間には、独特の張りつめた静けさがありました。「私にとって、色は幻想。私には現実が白黒で見えている」という言葉がそのまま体感できる展示で、時代の異なる作品が積み重なる密度そのものが体験になっていました。

レティシア・キイ「LOVE & JUSTICE」(ASPHODEL・出町桝形商店街ほか)は、コートジボワール育ちのアーティストが、植民地主義的な美意識によって否定されてきた自らの髪を、彫刻的な自己表現へと転換させた作品群です。アイデンティティへのメッセージが写真から直接伝わってきて、「自分が当たり前だと思っているものは何か」を静かに問いかけてきます。

Lee Shulman & Omar Victor Diop「Being There」(嶋臺ギャラリー)は、1950〜60年代の北米家族写真に黒人写真家Omar Victor Diopが「介入」するという手法が核心です。幸せそうな家族写真に、いるはずのない人物が自然な顔で写り込んでいる。写真に漂っていた「無邪気さ」がじわじわと揺らいでいく体験で、展示を見終わったあとしばらく頭から離れませんでした。

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2025年を振り返って

今年のテーマ「HUMANITY(人間性)」は、答えを教えてくれるものではありませんでした。

イトゥルビデは見えなくされてきたメキシコ先住民の文化を、キイは否定されてきた自らの髪を、ShulmanとDiopは家族写真の外に追いやられていた人々の存在を。それぞれが異なる形で「語られてこなかったこと」に光を当てていました。人間性とは、誰かによって定義されるものではなく、見えなくされてきたものの中にも確かに存在していたのだと、13の展示を通じて改めて感じました。

2024年に初めて訪れて以来、2年連続でここにいます。来年2026年も、開幕初日に京都にいたいと思っています。

展示一覧

アーティスト展示タイトル会場
JRクロニクル京都 2024京都新聞ビル 地下1F
アダム・ルハナThe Logic of Truth八竹庵(旧川崎家住宅)
土田ヒロミリトル・ボーイ八竹庵(旧川崎家住宅)蔵
マーティン・パーSmall WorldTIME’S
吉田多麻希土を継ぐ – Echoes from the SoilTIME’S
エリック・ポワトヴァン両忘 ― The Space Between両足院
イーモン・ドイルK東本願寺
甲斐啓二郎骨の髄くろちく万蔵ビル
Pushpamala NDressing Up京都文化博物館別館
石川真生アカバナ誉田屋源兵衛 竹院の間
劉星佑父と母と私ギャラリー素形
グラシエラ・イトゥルビデ日本初回顧展京都市美術館別館
レティシア・キイLOVE & JUSTICEASPHODEL・出町桝形商店街ほか
Lee Shulman & Omar Victor DiopBeing There嶋臺ギャラリー

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